相続の効力等に関する見直し

相続の効力等に関する見直し、というのは、相続による権利の承継について、対抗要件主義が適用されることになったことを示しています。

改正前においては、遺言による権利変動のうち相続を原因とするものについて、判例は、登記等の対抗要件を備えなくても、権利の取得を第三者に対抗することができるとしていました。

しかし、これでは、遺言によって利益を受ける相続人が登記等の対抗要件を備えようというインセンティブが働かないということになるとともに、

相続債権者が、法定相続分による権利の承継があったことを前提として相続財産に属する債権の差押と取立をした場合を考えたときに、被相続人の債務者が、その取立に応じても、遺言に反する部分は、無効になってしまうので、その債務者が附則の損害を被る可能性があります。

相続債権者や被相続人の債務者の法的地位については、相続開始の前後で、できるかぎり変動が生じないようするのが妥当である、ということを考えたときに、法定相続分を超えた場合には、その部分について対抗要件を備えなければ、権利を主張し得ないとしても、不当なものではないと考えられ、そのような場合は、利益を受ける相続人は、登記等の対抗要件を備えなければ法定相続分を越える権利の取得を第三者に主張することができないこととされました。

条文としては、899条の2・1項(共同相続における権利の承継の対抗要件)です。

相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

遺留分制度の見直し (2)

遺留分制度の見直しの続きです。

(1)以外にも、いろいろと改正がなされています。

具体的な改正事項としては

(ア)遺留分算定の基礎となる財産の明確化と限定

(イ)負担付き贈与の場合の規定の明確化

(ウ)相続債務のある場合における遺留分侵害額の算定の明確化

などがあります。

(ア)遺留分算定の基礎となる財産の明確化と限定

明確化

これについては、改正前の民法1029条が、「遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。」とされていたところ、今回の改正に伴って、1029条は、削除され(というか、1028条から1041条までが削除)て、対応する1043条で、

遺留分を算定するための財産の価額)
第千四十三条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

とされています。

限定

改正前の民法1030条が、「贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。」としていたのですが、これは、相続人以外の第三者に対して贈与がなされた場合に適用される場合の規定で、相続人に対してなされた場合には、時期を於保図、すべてが遺留分を算定するための財産の価額に算入されるとされていました。これだとあまりにも古い贈与まで算入されることになり場合によっては、法的安定性を損なうのではないか、という懸念があるとされて、相続人との間の実質的公平とのバランスという観点から、相続開始の前の10年間にされたものに限り、遺留分を算定するための財産の価額に含まれるものとされました。

条文としては、

第千四十四条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
(略)
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

(イ)負担付き贈与の場合の規定の明確化

これは、旧法においては、旧1038条において、目的財産の価額からふたの価額を控除したものについて減殺を請求することができることとされていたところ、この取扱が、目的物の価額の算定をするにあたっての扱いの規定であるの(一部算入説)か、目的財産の価額を全額算入しつつ、減殺の対象をその控除後4の残額に限定した趣旨なのか(全額算入説)という対立がありました。

残っている遺産として、2000万円の土地があり、以前は、4000万円の土地もあって、2000万円の借金を負担する代わりに、4000万円の土地を子Aに贈与するということにした場合を例にとります。
(相続人は、子供AおよひBのみとします)

一部算入説というのは、子Aに、2000万円の贈与がなされたとするものです。この場合は、財産の総額は、4000万円として計算されます

全部算入説というのは、総額6000万円の財産があって、減殺の対象が控除後の残額に限定されるとして、この場合は、4000万円は、減殺の対象ということになります

新法のもとでは、1045条1項で

負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。

とされています。

(ウ)相続債務のある場合における遺留分侵害額の算定の明確化

これは、遺留分侵害額を算定するにあたって加算すべき相続債務の額について、ア)法定相続分を前提に算定するという考え方 とイ)指定相続分を前提に計算するという考え方 とがあるところ、実際に遺留分権利者が相続人内部で負担すべき額を基準とすべきという後者の説を採用したものです。

条文としては、 1042条の遺留分から、控除される額として

1046条2項3号

被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

とされています。

遺留分制度の見直し(1) 

遺留分制度についての見直しです。

遺留分というのは、 というものです。改正前は、遺留分に関する権利(遺留分減殺請求権)を行使すると、当然に物権的効果が生じるとされていたために、目的財産が共有になるとされることがよくありました。

これによって、事業承継の支障となっているという指摘があったり、また、財産の共有持分として評価するので、数字が、大きくなって分かりにくい、という不都合な点が指摘されたりしました。そこで、

⑴ 遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされている現行法の規律を見直し,遺留分に関する権利の行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずることにする。

⑵ 遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者又は受贈者が,金銭を直ちには準備できない場合には,受遺者等は,裁判所に対し,金銭債務の全部又は一部の支払につき期限の許与を求めることができることにする。

とされたのが今回の改正です。

まずは、大きい変化として、遺留分「減殺」という用語は使わなくなったということがあげられます。法的には、「遺留分侵害額の請求権」となったということだそうです。いまだに破産宣告といってしまう私のような人にとっては、注意すべき改正事項です。

条文としては、

(1)については、1046条1項

遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

です。この請求は、必ずしも金額を明示して行う必要はないものと考えられており、また、10年の時効(債権法改正施行後は5年)にかかります。

また、今回の改正で、遺留分の額や算定方法が明確化されました。

具体的には、額は、1042条で、

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

とされ、計算方法は、1046条2項で

2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

とされています。

(2)については、1047条5項で

 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

になります。この期限の付与は、独立の訴え(形成の訴え)ですが、遺留分減殺請求権を行使したものからの請求のなかで、抗弁としてなしうるかについては、判断は固まっていません。

 

遺産分割前の預貯金の払戻し制度

遺産分割前の預貯金の払戻し制度です。法務省のチラシは、こちら。

これには、(1 )家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認る方策と(2) 家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策とがあります。

(1) 家庭裁判所の判断を経ないで,預貯金の払戻しを認める方策
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、各口座ごとに以下の計算式で求められる額(ただし、同一の金融機関に対する権利行使は,法務省令で定める額(150万円)を限度とする。)までについては,他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができるという制度です。

条文は、

遺産の分割前における預貯金債権の行使
第九百九条の二 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

となります。

【計算式】
単独で払戻しをすることができる額=(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)

平成28年12月19日の最高裁の決定によって、預貯金債権が遺産分割の対象に含まれるということが明らかにされたことによって、遺産分割までの間で、預貯金は、共同相続人の全員の同意をえた上で行使しなければならないこととなりました。これでは、被相続人から扶養を受けていた相続人の当面の生活費を工面するとか、それこそ、相続時に必要になる資金の足しにすることなどが可能になるように、裁判所の判断を経ないで、当然に預貯金の払戻しを認めるものとされました。

(2)  家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策

家事事件手続法200条2項は、

2 家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者又は相手方の申立てにより、遺産の分割の審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。

としているのですが、この条文では、「事件の関係任の急迫の危険を防止するため必要があるとき」という要件になっているために、被相続人のおっていた債務の弁済をする必要があるなどの受容には応えられませんでした。

そこで、預貯金債権の仮分割の仮処分については、家事事件手続法第200条第2項の要件(事件の関係人の急迫の危険の防止の必要があること)を緩和することとし、家庭裁判所は,遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において,相続財産に属する債務の弁済,相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要があると認めるときは、他の共同相続人の利益を害しない限り、申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させることができることにするとしたものです。

条文は、

3 前項に規定するもののほか、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第四百六十六条の五第一項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。

とされています。

7月1日からの相続法改正事項のメモ

「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行期日について」ですが、平成30年7月の法律の改正に伴って、改正事項が、段階的に施行されることになります。

その段階は、

⑴ 自筆証書遺言の方式を緩和する方策

2019年1月13日から施行されています。

⑵ 原則的な施行期日

2019年7月 1日
(遺産分割前の預貯金の払戻し制度,遺留分制度の見直し,相続の
効力等に関する見直し,特別の寄与等の⑴・ ⑶以外の規定)

⑶ 配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等
2020年4月 1日

となっています。

2019年7月 1日からは、

(1 )遺産分割前の預貯金の払戻し制度

(2) 遺留分制度の見直し

(3) 相続の効力等に関する見直し

(4) 特別の寄与など

が施行されています。以下、これらについて、見ていくことにしましょう。

令和元年民事執行法等の改正(3)その他の事項

令和元年民事執行法等の改正においては、

(1) 債務者の財産状況の調査に関する規定の整備

(2)子の引渡しの強制執行に関する規定の整備

をメモしてきました。

ということで、残りの、

(3)その他の事項についてメモをしていきましょう。

具体的には、

ア)不動産競売における暴力団員の買受け防止に関する規定の新設

イ) 債権執行事件の終了に関する規律の見直し

ウ) 差押禁止債権に関する規律の見直

になります。以下、概要等によって立法趣旨等を検討します。

ア)については、現行の民事執行法においては、暴力団員等の買受け自体を制限する規定がないことによって、全国の暴力団事務所は約1700箇所のところ、約200の暴力団事務所の物件が不動産競売の経歴を有していることが判明しています【警察庁調べ】。

我が国は、現在、 「世界一安全な日本」創造戦略(H25.12閣議決定)を定めて、その実現を配慮しているところ、そこでは、不動産競売・公売への暴力団の参加防止等の方策について検討することがうたわれています。

このような背景のもと、裁判所の判断により暴力団員,元暴力団員,法人で役員のうちに暴力団員等がいるもの等が買受人となることを制限するとともに、暴力団員等でない者が,暴力団員等の指示に基づき買受けの申出をすることも
制限するというのが改正の方針ということになります。

概要の2頁の図より

 

 

 

 

 

 

イ) 債権執行事件の終了に関する規律の見直し

これについては、,債権者が取立ての届出等をせずに長期間(2年以上)にわ
たって漫然と事件を放置し続けている場面において,執行裁判所の決定により事件を終了させるための仕組みを導入するということです。

条文としては、

第百五十五条に次の四項を加える。
5 差押債権者は、第一項の規定により金銭債権を取り立てることができることとなつた日(前項又はこの項の規定による届出をした場合にあつては、最後に当該届出をした日。次項において同じ。)から第三項の支払を受けることなく二年を経過したときは、同項の支払を受けていない旨を執行裁判所に届け出なければならない。
6 第一項の規定により金銭債権を取り立てることができることとなつた日から二年を経過した後四週間以内に差押債権者が前二項の規定による届出をしないときは、執行裁判所は、差押命令を取り消すことができる。
7 差押債権者が前項の規定により差押命令を取り消す旨の決定の告知を受けてから一週間の不変期間内に第四項の規定による届出(差し押さえられた金銭債権の全部の支払を受けた旨の届出を除く。)又は第五項の規定による届出をしたときは、当該決定は、その効力を失う。
8 差押債権者が第五項に規定する期間を経過する前に執行裁判所に第三項の支払を受けていない旨の届出をしたときは、第五項及び第六項の規定の適用については、第五項の規定による届出があつたものとみなす。

となっています。取立届については、つい、失念してしまうので、忘れずに届けるようにしましょう。

ウ) 差押禁止債権に関する規律の見直

これは、現状では,債務者が差押禁止債権の範囲変更の制度の存在を十分に認識していない,債務者が申立ての準備をしている間に差押債権者によって差押債権が取り立てられてしまう,などの理由により,この制度があまり活用されていない、という背景があります。

そこで、差押禁止債権の範囲変更の制度の存在を,裁判所書記官が債務者に対して教示するとともに、 給与等が差し押さえられた場面において,債務者が差押禁止債権の範囲変更の申立てのための準備期間を1週間から4週間に伸長(この準備期間中は取立てができない)したものです。

条文としては、民事執行法145条ですが

4 裁判所書記官は、差押命令を送達するに際し、債務者に対し、最高裁判所規則で定めるところにより、第百五十三条第一項又は第二項の規定による当該差押命令の取消しの申立てをすることができる旨その他最高裁判所規則で定める事項を教示しなければならない。

となります。また、同155条は、

2 差し押さえられた金銭債権が第百五十二条第一項各号に掲げる債権又は同条第二項に規定する債権である場合(差押債権者の債権に第百五十一条の二第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権が含まれているときを除く。)における前項の規定の適用については、同項中「一週間」とあるのは、「四週間」とする。

となります。

令和元年民事執行法等の改正(2) 子の引渡しの強制執行に関する規定の整備など

令和元年民事執行法等の改正は、1 債務者の財産状況の調査に関する規定の整備に加えて、2 不動産競売における暴力団員の買受け防止に関する規定の新設、3 子の引渡しの強制執行に関する規定の整備、4 債権執行事件の終了に関する規律の見直し、5 差押禁止債権に関する規律の見直しを含んでいます。

そして、さらに「等」の部分として、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部改正がなされています。

でもって、ここでは、子の引渡しの強制執行に関する規定の整備と国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部改正についてメモします。

これは、改正案の概要によると、 国内の子の引渡しの強制執行は年間100件程度(国際的な子の返還の代替執行は年間1,2件程度)だそうですが、

国内の子の引渡しの強制執行については、現行法において明文なく,動産に関する規定を類推適用しているわけですが、 裁判の実効性を確保しつつ,子の利益に配慮する等の観点から,規律を明確化する必要があるとされました。

明文化された手続は、以下のとおりです。

(子の引渡しの強制執行)
第百七十四条 子の引渡しの強制執行は、次の各号に掲げる方法のいずれかにより行う。
一 執行裁判所が決定により執行官に子の引渡しを実施させる方法
二 第百七十二条第一項に規定する方法2 前項第一号に掲げる方法による強制執行の申立ては、次の各号のいずれかに該当するときでなければすることができない。
一 第百七十二条第一項の規定による決定が確定した日から二週間を経過したとき(当該決定において定められた債務を履行すべ
き一定の期間の経過がこれより後である場合にあつては、その期間を経過したとき)。
二 前項第二号に掲げる方法による強制執行を実施しても、債務者が子の監護を解く見込みがあるとは認められないとき。
三 子の急迫の危険を防止するため直ちに強制執行をする必要があるとき。
3 執行裁判所は、第一項第一号の規定による決定をする場合には、債務者を審尋しなければならない。ただし、子に急迫した危険があるときその他の審尋をすることにより強制執行の目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。
4 執行裁判所は、第一項第一号の規定による決定において、執行官に対し、債務者による子の監護を解くために必要な行為をすべきことを命じなければならない。
5 第百七十一条第二項の規定は第一項第一号の執行裁判所について、同条第四項の規定は同号の規定による決定をする場合について、それぞれ準用する。
6 第二項の強制執行の申立て又は前項において準用する第百七十一条第四項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。

とされています。そして、実際の執行については、子と債務者が共にいること(同時存在)は不要としつつも、子の利益に配慮し,債権者の出頭を原則化しています。この点は、新聞報道でも触れていますが、「連れ去った親がその場にいることが要件となっている」ために、「親が居留守を使うなどして執行できないケースがある」ことから、この要件がなくなっています。

(執行官の権限等)
第百七十五条 執行官は、債務者による子の監護を解くために必要な行為として、債務者に対し説得を行うほか、債務者の住居その他債務者の占有する場所において、次に掲げる行為をすることができる。
一 その場所に立ち入り、子を捜索すること。この場合において、必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすること。
二 債権者若しくはその代理人と子を面会させ、又は債権者若しくはその代理人と債務者を面会させること。
三 その場所に債権者又はその代理人を立ち入らせること。
2 執行官は、子の心身に及ぼす影響、当該場所及びその周囲の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときは、前項に規定する場所以外の場所においても、債務者による子の監護を解くために必要な行為として、当該場所の占有者の同意を得て又は次項の規定による許可を受けて、前項各号に掲げる行為をすることができる。
3 執行裁判所は、子の住居が第一項に規定する場所以外の場所である場合において、債務者と当該場所の占有者との関係、当該占有者の私生活又は業務に与える影響その他の事情を考慮して相当と認めるときは、債権者の申立てにより、当該占有者の同意に代わる許可をすることができる。
4 執行官は、前項の規定による許可を受けて第一項各号に掲げる行為をするときは、職務の執行に当たり、当該許可を受けたことを証する文書を提示しなければならない。
5 第一項又は第二項の規定による債務者による子の監護を解くために必要な行為は、債権者が第一項又は第二項に規定する場所に出頭した場合に限り、することができる。
6 執行裁判所は、債権者が第一項又は第二項に規定する場所に出頭することができない場合であつても、その代理人が債権者に代わつて当該場所に出頭することが、当該代理人と子との関係、当該代理人の知識及び経験その他の事情に照らして子の利益の保護のために相当と認めるときは、前項の規定にかかわらず、債権者の申立てにより、当該代理人が当該場所に出頭した場合においても、第一項又は第二項の規定による債務者による子の監護を解くために必要な行為をすることができる旨の決定をすることができる。
7 執行裁判所は、いつでも前項の決定を取り消すことができる。
8 執行官は、第六条第一項の規定にかかわらず、子に対して威力を用いることはできない。子以外の者に対して威力を用いることが子の心身に有害な影響を及ぼすおそれがある場合においては、当該子以外の者についても、同様とする。
9 執行官は、第一項又は第二項の規定による債務者による子の監護を解くために必要な行為をするに際し、債権者又はその代理人に対し、必要な指示をすることができる。

国際的な子の返還の強制執行については、国内と同様の観点から規律を整備する必要あって、それが定められているのが、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部改正」ということになります。
ハーグ条約については、こちらになります。非常にサイトが充実しています。

条約の日本語訳については、こちらです。

11条には、「締約国の司法当局又は行政当局は、子の返還のための手続を迅速に行う。」という規定があります。
12条は、返還の申請、13条は、返還を命じる義務を負わない場合などの規定です。

このような規定にあわせるために、今回の改正がなされています。

内容としては、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(平成二十五年法律第四十八号)」の136条が、現在は、

(間接強制の前置)
第百三十六条 子の返還の代替執行の申立ては、民事執行法第百七十二条第一項の規定による決定が確定した日から二週間を経過した後(当該決定において定められた債務を履行すべき一定の期間の経過がこれより後である場合は、その期間を経過した後)でなければすることができない。

となっているところ、

(子の返還の代替執行と間接強制との関係)

子の返還の代替執行の申立ては、次の各号のいずれかに該当するときでなければすることができない。

一 民事執行法第百七十二条第一項の規定による決定が確定した日から二週間を経過したとき(当該決定において定められた債務を履行すべき一定の期間の経過がこれより後である場合にあっては、その期間を経過したとき)。
二 民事執行法第百七十二条第一項に規定する方法による強制執行を実施しても、債務者が常居所地国に子を返還する見込みがあるとは認められないとき。
三 子の急迫の危険を防止するため直ちに子の返還の代替執行をする必要があるとき。

と改正されることになりました。これによって、前置は、必須ではなくなっています。

今ひとつのポイントは、子と債務者の同時存在が必要とされているのを、同時存在の要件を不要としつつ,子の利益に配慮し,債権者の出頭を原則化するということになります。

現在の同法の140条は、

(執行官の権限)
第百四十条 執行官は、債務者による子の監護を解くために必要な行為として、債務者に対し説得を行うほか、債務者の住居その他債務者の占有する場所において、次に掲げる行為をすることができる。
一 債務者の住居その他債務者の占有する場所に立ち入り、その場所において子を捜索すること。この場合において、必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすること。
二 返還実施者と子を面会させ、又は返還実施者と債務者を面会させること。
三 債務者の住居その他債務者の占有する場所に返還実施者を立ち入らせること。
2 執行官は、前項に規定する場所以外の場所においても、子の心身に及ぼす影響、当該場所及びその周囲の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときは、子の監護を解くために必要な行為として、債務者に対し説得を行うほか、当該場所を占有する者の同意を得て、同項各号に掲げる行為をすることができる。
3 前二項の規定による子の監護を解くために必要な行為は、子が債務者と共にいる場合に限り、することができる。
4 執行官は、第一項又は第二項の規定による子の監護を解くために必要な行為をするに際し抵抗を受けるときは、その抵抗を排除するために、威力を用い、又は警察上の援助を求めることができる。
5 執行官は、前項の規定にかかわらず、子に対して威力を用いることはできない。子以外の者に対して威力を用いることが子の心身に有害な影響を及ぼすおそれがある場合においては、当該子以外の者についても、同様とする。
6 執行官は、第一項又は第二項の規定による子の監護を解くために必要な行為をするに際し、返還実施者に対し、必要な指示をすることができる。
となっています。債務者と子が同時にいることが前提です。これが、以下のように変更になります
(執行官の権限等)
第百四十条 民事執行法第百七十五条(第八項を除く。)の規定は子の返還の代替執行における執行官の権限及び当該権限の行使に係る執行裁判所の裁判について、同法第百七十六条の規定は子の返還の代替執行の手続について、それぞれ準用する。この場合において、同法第百七十五条第一項第二号中「債権者若しくはその代理人と子」とあるのは「返還実施者(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(平成二十五年法律第四十八号)第百三十七条に規定する返還実施者をいう。以下同じ。)、債権者若しくは同法第百四十条第一項において準用する第六項に規定する代理人と子」と、「又は債権者若しくはその代理人」とあるのは「又は返還実施者、債権者若しくは同項に規定する代理人」と、同項第三号及び同条第九項中「債権者又はその代理人」とあるのは「返還実施者、債権者又は国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律第百四十条第一項において準用する第六項に規定する代理人」と読み替えるものとする。
2 執行官は、前項において準用する民事執行法第百七十五条第一項又は第二項の規定による子の監護を解くために必要な行為をするに際し抵抗を受けるときは、その抵抗を排除するために、威力を用い、又は警察上の援助を求めることができる。
3 執行官は、前項の規定にかかわらず、子に対して威力を用いることはできない。子以外の者に対して威力を用いることが子の心身に有害な影響を及ぼすおそれがある場合においては、当該子以外の者についても、同様とする。
なるほどです。IT法のブログばっかり書いてますが、弁護士としては、家族法は、離婚も多くとりあつかってますし、国際案件もたまにはあるので、きちんと勉強しておきましょう。

 

 

令和元年民事執行法等の改正(1)債務者の財産状況の調査に関する規定の整備

民事執行法等の改正のひとつの大きなテーマは、債務者の財産状況の調査に関する規定の整備になります。

判決をもらっても、最終的には、執行ができなければ、絵に書いた餅になります。ところが、なぜか我が国では、判決手続までについては、比較法的な検討が進んでいたのですが、執行が効果的になされるか、という点についての興味が比較的(というか、かなりの程度)低かったような感じです。

今回の改正で、かなりの程度が見直しされたということができるかと思います。あとは、実務で実際にどのような運営になるか、ということが注目されるかと思います。

この規定の整備は、1 現行の財産状況の調査に関する規定の整備 と 2 第三者からの情報取得手続の新設にわかれます。

1現行の財産状況の調査に関する規定の整備 は、さらに、(1)実施要件の見直しと(2)手続違背に対する罰則の見直しにわかれます。

(1)は、197条1項において「執行力のある債務名義の正本(債務名義が第二十二条第二号、第三号の二から第四号まで若しくは第五号に掲げるもの又は確定判決と同一の効力を有する支払督促であるものを除く。)を有する金銭債権の債権者の申立てにより、債務者について、財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない」となっていて、民事執行法22条における

「(債務名義)第二十二条

 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。

(略)
二 仮執行の宣言を付した判決
三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
三の二 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
三の三 仮執行の宣言を付した届出債権支払命令
四 仮執行の宣言を付した支払督促
(略)
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)」
となっているところから、これらが除かれていました。
しかし、金銭債権についての強制執行の申立てに必要とされる債務名義であれば、いずれの種類の債務名義についても、財産開示手続の申立てをすることができるようにしました。
(2)は、財産開示期日において、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓を拒んだ開示義務者や、財産開示期日において宣誓した開示義務者であって、正当な理由なく(略)陳述すべき事項について陳述をせず、又は虚偽の陳述をしたものについての罰則を強化するものです。213条(陳述等拒絶の罪)は、「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処するとなっています。
2 第三者からの情報取得手続の新設
これは、具体的には、(1)不動産にかかる情報の取得、(2)債務者の給与債権に係る情報の取得 (3)債務者の預貯金債権等に係る情報の取得が、整備されることになりました。
そもそもですが、第四章が、債務者の財産状況の調査となって、財産開示手続に加えて、「第二節 第三者からの情報取得手続」となっています。
(1)については、執行裁判所が、登記所に対して、強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるものについて情報の提供をすべき旨を命じなければならない、とされています(205条)。
(2)については、債務者の給与債権に係る情報の取得として、執行裁判所は、特定の場合に、市町村や、年金機構等に対して、給与債権にかかる情報を提供しなければならないとしています(206条)。
(3)については、債務者の預貯金債権等に係る情報の取得として、執行裁判所は、銀行等に対して、預貯金債権(略)に対する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるものに関する情報を提供すべき旨を命じなければならないとしています(207条)。

民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律

「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律」が国会を通過しました。

債務者の財産状況の調査に関する規定の整備、不動産競売における暴力団員の買受け防止に関する規定の新設、子の引渡しの強制執行及び国際的な子の返還の強制執行に関する規定の整備等を行うというのが、今回の改正の理由になります。

民事執行法の一部改正部分と子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する部分に分かれます。

新聞報道だと民事執行法部分に注目するもの「ハーグ条約対応法 成立」という面に注目するものの二つがありますが、法律としては、ひとつの法律になります。

民事執行法改正部分については、さらに財産状況の調査に関する規定の整備、不動産競売における暴力団員の買い受け防止に関する規定の新設、子の引渡しの強制執行に関する規定の整備、債権執行事件の終了に関する規律の見直し、差押禁止債権に関する規律の見直し、からなりたっています。

財産状況の調査に関する規定の整備は、それひとつでエントリに相当するものですし、また、子の引き渡しの強制執行は、ハーグ条約対応とともに検討してみたいと思っています。

 

 

 

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案

「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」が、国会で可決成立しました(平成30年7月6日)。
要綱は、こちら
条文は、こちら

相続等の業務に大きく変更を与えるであろう改正なので、きちんと勉強をしていきたいと思います。

改正の内容としては、民法の改正、家事事件手続法の一部改正にわけられます。

民法の改正としては、
(1)配偶者の居住の権利
(2)遺産分割等に関する見直し
(3)遺言制度に関する見直し
(4)遺留分制度の見直し
(5)相続の効力等に関する見直し
(6)特別の寄与

家事事件手続法の一部改正としては
(1)遺産分割前の預貯金債権の仮分割の仮処分
(2)特別の寄与に関する審判事件

があげられています。
それぞれ、実務に対して、かなりの影響をもつだろうという気がします。